そもそもフルスタックエンジニアとは

フルスタックエンジニアに厳格な定義はなく、職場やメディアによってニュアンスが異なります。大まかに言えば、広義的な使われ方・狭義的な使われ方があります。それぞれ見ていきましょう。
広義的なフルスタックエンジニア
広義的なフルスタックエンジニアとは、幅広い業務をマルチにこなせるエンジニアのことです。
フルスタックエンジニアは、1人で複数のポジション・工程をカバーすることも少なくありません。人件費を抑えたいベンチャー・スタートアップ企業で評価を受けやすいものの、何でも任せられることを期待して採用されることもあります。フルスタックエンジニアとして活躍するためには幅広い知識を身に付けなければならないため、キャリアパスを見据えた学習や行動が大切です。
狭義的なフルスタックエンジニア
狭義的なフルスタックエンジニアとは、Web開発においてフロントエンド(ブラウザ側)とバックエンド(サーバー側)の両方を担当できるエンジニアのことです。フロントエンドとバックエンドの知識・経験を兼ね備え、状況に合わせて担当できます。
Webアプリを実現するうえでは、フロントエンド・バックエンドのプログラム開発が欠かせません。フルスタックエンジニアがいれば、どちらの開発も柔軟にカバーできるため、Web開発において高い需要があります。
求人サイトで「フルスタックエンジニア」と検索した際、ヒットする案件の多くはWeb開発です。そのため、昨今のIT業界におけるフルスタックエンジニアは、狭義的なニュアンスのほうがポピュラーといえます。
本記事では、主にWeb開発を前提としたフルスタックエンジニアについて解説していきます。
フルスタックエンジニアの主な仕事内容

フルスタックエンジニアの仕事内容は、大まかに「フロントエンド開発」「バックエンド開発」の2種類です。それぞれの仕事内容について、順番に見ていきましょう。
フロントエンド開発
フロントエンド開発とは、Webアプリの「直接目にする部分」を開発する仕事です。ユーザーがWebブラウザを通して見たり、利用したりする部分のプログラムを開発します。
具体的には、Webページのデザインやレイアウト、ボタンやタブの表示・動作制御などが主な担当範囲です。また、後述する「バックエンド」のプログラムとのやり取りもケアしなければなりません。
Webページの表示内容を決める「HTML」、デザインを調整する「CSS」、アクティブな要素を入れる「JavaScript」が主要な開発言語です。フルスタックエンジニアには、これら言語のスキルに加えてWebデザインなどの知識も求められます。
バックエンド開発
バックエンド開発とは、Webアプリの「目に見えない部分」を開発する仕事です。Webアプリの裏方には、リクエスト(要求)を処理したり、データを管理したりする「サーバー」が欠かせません。バックエンド開発では、このサーバー上で動作するプログラムを主に開発します。
具体的には、ユーザーからのリクエストに応じたデータの取得や加工、Webページの生成などが主な担当範囲です。また、フロントエンドのプログラムとのやり取りも発生します。
バックエンド開発では「PHP」や「Python」など、さまざまな言語が使われます。それに加えて、データ管理に用いる「データベース」の知識、データベースを操作するための言語「SQL」の知識も求められます。
フルスタックエンジニアになるためのおすすめロードマップ

Web開発に携わるフルスタックエンジニアには広範な経験・スキルが必要です。フルスタックエンジニアを目指す場合、正しいロードマップに沿って取り組まないと挫折してしまいます。
フルスタックエンジニアになるためのロードマップとしては、次の4ステップがおすすめです。
- フロントエンド開発・バックエンド開発について学ぶ
- 担当したい開発領域を決める
- Web企業で実務経験を積む
- 未担当の開発領域にもトライする
各ステップについて、順番に見ていきましょう。
1.フロントエンド開発・バックエンド開発について学ぶ
フルスタックエンジニアには、フロントエンド開発・バックエンド開発の知識・スキルが不可欠です。まずは両方について学び、基本レベルの知識・スキルを身につけましょう。最低限、学習が必要となる項目を下表にまとめました。
領域 | 内容 |
フロントエンド開発 | 開発言語:HTML、CSS、JavaScriptなど 主要なライブラリやフレームワークの使い方 Webデザインの知識 |
バックエンド開発 | 開発言語:PHPやPythonなど、SQL 主要なライブラリやフレームワークの使い方 データベースの知識 |
共通 | バージョン管理ツール(Gitなど)の使い方 ネットワークやセキュリティに関する知識 |
「ライブラリ」は自分のプログラムに利用できる便利な部品、「フレームワーク」は主要機能をまとめたプログラムの枠組みです。Web開発を効率化するために、言語ごとの主要なライブラリやフレームワークの使い方を学びましょう。
また、プログラムの管理には「バージョン管理ツール」を用いることが一般的です。「Git」などのバージョン管理ツールの使い方も学びます。
学習方法は、入門書や学習サイトを用いた独学でも構いません。ただし学習項目が多く、Webアプリを実践学習で開発する際、経験が少ないとつまずきやすいです。独学に不安がある場合は、専門学校やプログラミングスクールなどの利用をおすすめします。
2.担当したい開発領域を決める
次に、担当したい開発領域を決めましょう。経験の少ないエンジニアが、はじめから実務でフロントエンド開発・バックエンド開発を兼任することは基本的にありません。経験が浅いうちは、片方の開発領域を担当することが一般的です。
そのため、フロントエンド開発・バックエンド開発のどちらをメインで担当したいのかを決めておくことをおすすめします。学習を通してより得意と感じたもの、あるいは楽しいと感じたものを選べばOKです。そして、実践学習を交えて選んだほうをより専門的に学びます。
3.Web企業で実務経験を積む
続いて、身につけた知識・スキルを活かしてWeb企業に入社し、実務経験を積みましょう。
最初は、下流工程(実装やテスト)の作業が中心となります。先輩エンジニアのサポートも受けつつ、経験値を高めてください。下流工程に慣れてきたら、徐々に上流工程(要件定義や設計など)の作業も経験しましょう。
4.未担当の開発領域にもトライする
フロントエンド開発・バックエンド開発のいずれかを習熟した後は、もう片方の開発領域にもトライします。たとえば、フロントエンド開発を先に習熟した方は、バックエンド開発も担当していきます。
ただし、担当業務のアサインは企業やチームの方針にもよるため、キャリア設計を踏まえた相談が必要です。両方の開発領域に習熟して初めて「フルスタックエンジニア」と呼ばれる存在になります。
フルスタックエンジニアになるには何年かかる?

フルスタックエンジニアには幅広い知識・スキルだけでなく実務経験も求められるため、一朝一夕でなれるものではありません。フルスタックエンジニアを目指す場合、数年スパンで取り組んでいく必要があります。ここでは、フルスタックエンジニアになるには何年かかるのか、大まかな目安を見ていきましょう。
【1~3年目】片方の担当領域を習熟
プログラミング経験の有無や確保できる学習時間によっては、学習だけでも1年以上はかかります。また、1人で難なく開発をこなせるレベルになるまでには、順調に行っても実務経験1年以上は必要と考えておくと安心です。フロントエンド開発・バックエンド開発のうち片方を習熟できる時期は、1~3年目ごろが目安となります。
【3~5年目】フロントエンド開発・バックエンド開発を習熟
早ければ3年目ごろには、もう片方の担当領域を実務で経験している可能性があります。慣れないうちは下流工程がメイン担当ですが、仕様や設計を作る上流工程も徐々に経験していかなければなりません。上流工程も含め、フロントエンド開発・バックエンド開発の両方を習熟できる時期は、3~5年目ごろが目安です。
フルスタックエンジニアになるためのポイント

フルスタックエンジニアになるためのポイントは、主に次の5つです。
- 幅広い知識を身につける
- 上流工程を積極的に経験する
- 器用貧乏にならないよう専門性を高める
- 知識やスキルを客観的に示せる資格を取得する
- 継続的に学習する
それぞれ見ていきましょう。
幅広い知識を身につける
フルスタックエンジニアを目指す方は、できる限り幅広い知識を身につける必要があります。上流工程から下流工程まで、フルスタックエンジニアは広範な業務をカバーしなければなりません。そのためには、知識量を増やすことが重要です。
フロントエンドとバックエンドの言語スキルはもちろん、バージョン管理ツールやセキュリティなど、幅広く学びましょう。また「ミドルウェア」の知識も身につけるべきです。ミドルウェアとは、OSとアプリをつなぐソフトウェアのこと。たとえば、サーバーのリクエストを管理する「Apache」などもミドルウェアの一種です。
上流工程を積極的に経験する
フルスタックエンジニアを目指す方は、上流工程を積極的に経験しましょう。上流工程は下流工程の業務品質にも直結する重要なフェーズであり、クライアントとのやり取りも発生します。上流工程を経験することは、大きなステップアップにつながります。
上流工程には、どのようなソフトウェアを開発するか決める「要件定義」、具体的な実現方法を決める「設計」があります。これらのドキュメント作成や打ち合わせなどに携わることをおすすめします。クライアントとのやり取りも早めに経験できることが理想です。
ただし上流工程を任されるためには、下流工程をきっちりこなせるだけの信頼感が求められます。下流工程の学習・実務も大切にしましょう。
器用貧乏にならないよう専門性を高める
フルスタックエンジニアを目指して学習する際には、器用貧乏にならないよう専門性を高めることも大切です。広く浅く学習するあまりどれも中途半端になり、器用貧乏になりやすい傾向があります。そうなると「どの業務も頼れない」となってしまいます。
とはいえ、いきなり全スキルの専門性を高めることは簡単ではありません。1つ2つ専門性が高いスキルを確立したうえで、少しずつ専門性を広げていくことをおすすめします。
知識やスキルを客観的に示せる資格を取得する
フルスタックエンジニアに必須の資格はありませんが、知識やスキルの証明には有用です。知識やスキルを客観的に示せる資格の取得をおすすめします。フルスタックエンジニアに役立つ主な資格を下表にまとめました。
資格名 | 概要 |
応用情報技術者試験 | ITに関する幅広い知識を証明できる国家資格 |
HTML5プロフェッショナル認定試験/PHP技術者認定試験 など | 開発言語の知識・スキルを証明できる資格 |
AWS認定/Microsoft Azure認定資格/Google Cloud 認定資格 など | クラウドサービスの知識・活用スキルを証明できる資格 |
昨今では、クラウドサービスを用いてクラウド上でWebアプリを開発・運用する企業も増えています。そのため、クラウドサービスに関する資格を取得するのも効果的です。
継続的に学習する
フルスタックエンジニアを目指してWeb企業に入社した後も、継続的に学習していきましょう。IT業界では新しい技術が急速に普及し、従来の技術が下火になるケースも少なくありません。継続的に学習し、新しい技術にも対応していくことが大切です。
学習を通してより幅広い業務に対応できるようになれば、活躍の場も広がります。フルスタックエンジニアに少しでも早くなるためにも、継続的に学習していきましょう。
フルスタックエンジニアのメリット・将来性

フルスタックエンジニアを目指すうえでは、メリットや将来性についても知っておきたいところです。ここでは、フルスタックエンジニアになるメリット・将来性について解説します。
転職における市場価値が高く活躍の機会が多い
フルスタックエンジニアは転職における市場価値が高く、活躍の機会が多いといえます。フルスタックエンジニアになれば、フロントエンド開発・バックエンド開発はもちろん、データベースやWebデザインなどに特化した仕事も可能です。
幅広いポジションで活躍できるチャンスがあるため、仕事探しで有利になります。そのため、フルスタックエンジニアは将来性の高い仕事といえます。
キャリアパスの幅が広がる
フルスタックエンジニアになった後も、さまざまなキャリアの選択肢があります。たとえば、クライアントとの折衝やチーム開発の経験を活かして、マネジメント職に回ることも可能です。豊富な実務経験を活かして、独立する方も少なくありません。
また、スキルを磨いて技術のスペシャリストになれば、CTO(最高技術責任者)として経営の一翼を担う選択肢も見えてきます。幅広い知識やスキルを活かせるため、自分が理想とするキャリアを描きやすいのです。
フルスタックエンジニアのデメリット・注意点

フルスタックエンジニアになることには、デメリットや注意点もあります。主なデメリット・注意点を知っておきましょう。
スキルの幅広さが必ず年収アップにつながるわけではない
フルスタックエンジニアはスキルの幅広さが強みです。しかし、その強みを活かせる企業、あるいは正当に評価してくれる企業でなければ、年収アップにはつながりません。
たとえば、特定の技術に特化した企業やチームでは、フルスタックエンジニアがもつスキルの幅広さを存分には活かせないでしょう。
また、フルスタックエンジニアの求人は大企業から中小企業、スタートアップ企業までさまざまです。そのため、勤め先の企業によって年収が大きく変わってくることも心にとめておきましょう。
業務や学習の負担が大きくなりやすい
フルスタックエンジニアになるまでの道のりは、決して平坦ではありません。さまざまなスキルを数年スパンで磨いていく必要があり、業務や学習の負担が大きくなりやすいといえます。
スキル習得に向けた学習に注力しすぎると、本業や学業に支障をきたしかねません。フルスタックエンジニアを目指す際には、ワークライフバランスも考慮して無理のない学習計画を立てましょう。
まとめ

フルスタックエンジニアとは、幅広い業務をマルチにこなせるエンジニアのことです。主にWeb開発で使われる言葉で、フロントエンド(ブラウザ側)とバックエンド(サーバー側)の両方を担当できる需要の高い存在といえます。
ただし、フルスタックエンジニアになることは簡単ではなく、数年スパンで取り組んでいくことが求められます。フルスタックエンジニアを目指す際には、今回紹介したロードマップを参考にして、着実にステップアップしていきましょう。