SES・SES企業・SES契約の違い

まずは、SESの基本事項について整理しておきましょう。次の4つについて、順番に解説していきます。
- SESとは
- SES企業とは
- SES契約とは
- システム開発における業界構造とSESの位置付け
それぞれ詳しく見ていきましょう。
・SESとは
SES(システムエンジニアリングサービス)とは、クライアント企業に対して労働力を提供することで報酬を得るサービスのことです。名称に含まれる「システムエンジニア」だけでなく、プログラマーなどさまざまなIT職種の方がSESとして働けます。
労働力を提供するために、クライアント企業へエンジニアを派遣することが一般的です。エンジニアは派遣された職場で与えられた業務を遂行し、その労働力に対して報酬が支払われます。この働き方が派遣と似ているため、混同されることが少なくありません。
詳細は後述しますが、SESと派遣はまったく異なるものです。
・SES企業とは
SESを主な事業とする企業を一般的に「SES企業」と呼びます。
SES企業は、クライアント企業と後述する「SES契約」を結び、自社からエンジニアを派遣します。労働力を提供することで、SES企業へ報酬が支払われるのです。報酬からSES企業の取り分(マージン)を差し引いた金額が、エンジニアへの給与支払いに充てられます。
なおSES企業と自社のエンジニアは、雇用契約を結ぶことが一般的です。エンジニアが残業すれば残業代が発生する点は、一般的な会社員と変わりません。
・SES契約とは
SES企業とクライアント企業が結ぶ契約のことを「SES契約」と呼ぶことがあります。SES契約は業務委託契約の一種であり、なかでも「準委任契約」が特にポピュラーです。
準委任契約は、法律行為を除いた業務の遂行に対して報酬を支払う契約で、成果物の納品が義務付けられません。そのため、プログラムのような成果物を納品できなかったとしても、実際の労働時間にもとづいて報酬が支払われます。この点は、SES契約も派遣契約も変わりません。
・システム開発における業界構造とSESの位置付け
システム開発では、「発注者→元請け→一次請け→二次請け」といった形で、連鎖的に仕事が流れていく多重下請け構造が一般的です。受注した仕事から自社でカバーできない業務を切り出し、下請け業者へ委託する流れが繰り返されます。
SES企業も、この流れに組み込まれています。元請け業者からの依頼、一次請け業者からの依頼など、どの階層に位置するかはSES案件によってさまざまです。SES企業で働く場合、多重下請け構造であることを知っておきましょう。
SESと派遣の主な違い
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SESと派遣では、主に「指揮命令者」「契約期間」「給与制度」が変わってきます。それぞれ、違いを詳しく見ていきましょう。
指揮命令者
SES契約と派遣契約(労働者派遣契約)の決定的な違いは、指揮命令者(業務の指示を出す人)です。
派遣契約では、指揮命令権がクライアント企業(派遣先企業)にあります。派遣先企業は労働者派遣法のルール上、専用の指揮命令者を設置しなければなりません。クライアント企業の指揮命令者が、派遣エンジニアへ直接業務指示を出すのです。
一方のSES契約では、指揮命令権がSES企業にあります。クライアント企業の社員がSESエンジニアへ直接的に業務指示を出せません。SES企業が、クライアント企業との窓口となるマネージャーなどを設置し、窓口経由で業務指示を出すことが一般的です。
SES契約の場合、残業の指示も基本的にSES企業側から出すことになります。指揮命令者がクライアント企業側なのか、SES企業側なのかが違うことを覚えておきましょう。
契約期間
案件にもよりますが、契約期間はSES契約のほうが長い傾向があります。
厚生労働省「派遣契約の状況」によると、派遣契約における過半数の契約期間は、半年未満と短期間です。「ソフトウェア開発」では比較的長期間なものの、1年以上のケースは約10%にとどまっています。また労働者派遣法のルール上、同じ職場での勤務は3年までしか継続できません。契約を更新したとしても、異動は必要となります。
一方SES契約では、契約期間の制約が厳密に定められていません。そのため、プロジェクト単位での契約が一般的で、1つの案件で1年以上働けるケースも多くあります。3年を超えて長期間、同じ職場で活躍できる可能性も十分考えられます。
給与制度
SESと派遣では、給与制度も異なります。
SES企業に勤めるエンジニアは基本的に雇用契約を結ぶため、クライアント企業へ派遣されなくても月々の給料を受け取ることが可能です。ただし、自社内でIT以外の業務を振られたり、給料が減額されたりするケースもあります。
一方、一般的にイメージされやすい「登録型派遣」だと、派遣先で労働している期間しか給料が発生しません。派遣されないと給料がもらえないため、SES企業に勤める場合のほうが収入は安定しやすいといえます。
なお、派遣会社がエンジニアを雇う「常用型派遣」の場合は、派遣されなくても給料を受け取れます。こちらの場合は、SES企業に勤める場合と大きくは変わりません。
SES企業で働くメリット
SES企業で働くメリットは、主に次の3つです。
- 未経験者でも採用されやすい
- 大きなプロジェクトに関わるチャンスがある
- 幅広いスキルと知識が身につく
それぞれ詳しく見ていきましょう。
・未経験者でも採用されやすい
SES企業は、未経験者でも採用されやすい傾向があります。
SES企業は、クライアント企業へ多くの労働力を提供できるほど、利益が増大しやすくなります。収益性を高めるために、多くの人材を求めているSES企業も少なくありません。そのため、未経験者でも積極的に採用しているSES企業は多いのです。
研修制度が充実しているSES企業であれば、未経験でも十分な準備期間を経てクライアント企業に派遣されます。より良い案件にアサインされれば、未経験者でもスキルアップすることは十分可能です。
・大きなプロジェクトに関わるチャンスがある
SES企業で働けば、大きなプロジェクトに関わるチャンスがあります。
SESにはさまざまな案件があり、中長期のプロジェクトも珍しくありません。営業に力を入れているSES企業であれば、大企業から直接依頼を請けるケースもあります。案件次第では、こうした大舞台で活躍できるチャンスがあるのです。
自社サービスを開発する大企業への就職を目指す場合、特定のサービスに対する強い興味関心が求められます。しかしSES企業であれば、強いこだわりがない方でもある程度大きなプロジェクトに関わるチャンスがあります。
ただし、SES企業によって案件の傾向は大きく変わるため、より良い案件をもつSES企業を選びましょう。
・幅広いスキルと知識が身につく
SES企業で働けば、幅広いスキルと知識を身につけられます。
SES企業に勤める場合、1つの企業に限らずさまざまな職場を経験できるチャンスがあります。エンジニアの成長を大切にするSES企業であれば、キャリアアップにつながる市場価値の高いスキルを養えるでしょう。
また、直接的な業務指示はなくとも、クライアントと打ち合わせなどで関わる機会は多いです。クライアントとのコミュニケーションを若手のうちに経験できることも、大きな成長につながります。
SES企業で働くデメリット
SES企業で働くことには、メリットだけでなくデメリットもあります。主なデメリットは、次の2つです。
- 理想のキャリアを実現するのが難しい
- クライアント先のルールに振り回されやすい
それぞれ詳しく見ていきましょう。
・理想のキャリアを実現するのが難しい
SES企業で働く場合、理想のキャリアを実現するのが難しい側面もあります。
クライアント企業に提案するエンジニアを決める際の方針はSES企業によります。エンジニアのキャリアパスを考慮せず、保有スキルや自社都合だけで提案してしまうSES企業も少なくありません。この場合、エンジニア自身が描く理想のキャリアからは遠ざかってしまうでしょう。
営業力が低いSES企業だと案件の選択肢が少ないため、このような事態が発生しやすいといえます。また、商流が深い(下請けの多重度が高い)案件がメインのSES企業だと、上流工程(要件定義や設計)の経験をあまり積めないケースも多いです。
SES企業を選ぶ際には「理想のキャリアを実現できそうか」という観点でもチェックしましょう。たとえば、1人での常駐で管理コストが増大したとしても、エンジニアのキャリアアップにつながる案件にアサインしてくれる企業もあります。一人参画の場合、OJTがないことからエンジニアに寄り添っていないと考えられがちですが、キャリア形成の観点で見るとエンジニアのことを考えてくれているといえるでしょう。
・クライアント先のルールに振り回されやすい
SESエンジニアは、クライアント先のルールに振り回されやすいといえます。SES企業で働く場合、基本的にクライアント先の働き方・ルールに合わせなければなりません。クライアント先が変わると、新しい職場のルールを覚え直す負担が生じます。
たとえば、出退勤や休憩の時間、入館証などの出勤手続きは、クライアント先によってさまざまです。プロジェクトが変われば人間関係も再構築しなければなりません。SESでクライアント先が変わると、このような環境変化が負担になりやすいのです。
SESに求められるエンジニア像

SESがすべてのエンジニアに合っているわけではありません。SES企業で働くことを考える場合、SESに求められるエンジニア像を知っておきましょう。
自発的に仕事ができる
SESでは、自発的に仕事ができるエンジニアが理想といえます。
エンジニアを受け入れるクライアント企業は、指揮命令権の関係で直接的に業務指示を出せません。そのため、基本的にSES企業側でエンジニアのディレクションを行っていく必要があります。しかし、手取り足取り指示されなければ動けないエンジニアでは、自社における窓口担当者の負担が増大してしまいます。
その点、自らで業務状況や要望を把握し、すべきことを遂行できるエンジニアであれば、周りに負担をかけずに業務をスムーズに進められるでしょう。
変化を恐れず楽しめる
SES企業には、変化を恐れず楽しめるエンジニアが求められます。
SESエンジニアにとって、常駐するクライアント先が変わることは珍しくありません。こうした環境変化が苦痛に感じられるようでは、SESで仕事を長く続けることは難しくなります。
そのため、環境変化をむしろチャンスと捉え、ポジティブに楽しめるエンジニアが理想です。このようなエンジニアは、クライアント先を問わず上手くやっていけるでしょう。
スキルアップ思考
SESエンジニアとして活躍するためには、スキルアップ思考をもつことも大切です。
IT業界はテクノロジーの進化がめざましく、現場で求められるスキルも変わっていきます。現在は需要の高いスキルでも、新しい技術の台頭により需要が低迷していくケースも少なくありません。そのため、こうした移り変わりに対応できる人材が必要です。
スキルアップ思考をもつエンジニアであれば、常に新しいスキルを取り込み、保有スキルを磨いていけます。変化の多いIT業界で常に高い市場価値をキープするために、自己研鑽の気持ちを忘れないようにしましょう。
まとめ

SESとは、クライアント企業に対して労働力を提供することで報酬を得るサービスのことです。エンジニアを派遣する点は派遣会社に勤める場合と同様ですが、指揮命令者や契約期間、給与制度については違いがあります。
SES企業で働く魅力は、未経験からのスキルアップや、大きなプロジェクトへの参画といったチャンスがあることです。SESで働くことに興味がある方は、本記事の内容をぜひ参考にしてください。