AIエンジニア(機械学習エンジニア)の仕事内容
AIエンジニアは、AI(人工知能)を活用してさまざまな技術的課題を解決する専門家です。機械学習モデルの開発やデータの前処理、モデルの評価・最適化などを行い、ビジネスの課題解決や業務効率化につなげます。
技術の発展に伴い、自然言語処理や画像認識、自動運転など、幅広い分野でAIが応用されています。AIを活用した業務効率化や、新たなビジネスモデルの構築を目指している企業も少なくありません。
そのため、数年前までは一般的ではなかったAIエンジニアという職業が、近年では急速に注目されています。
AIエンジニア(機械学習エンジニア)の平均年収

AIエンジニアの平均的な年収は約597万円です。月給換算では約50万円、初任給は23万円前後が相場になります。
AIエンジニア(機械学習エンジニア) | 一般的なエンジニア | 一般的な会社員 | |
平均年収 | 約597万円 | 約586万円 | 約458万円 |
引用:「求人ボックス」「賃金構造基本統計調査 表番号7」「民間給与実態統計調査」
AIエンジニアの年収は、一般的なエンジニアの年収よりもわずかに高くなっています。AIや機械学習という高度な専門技術は評価されていますが、市場全体では年収水準に大きな差はありません。しかし、AI技術がさらに進化して需要が増加すれば、将来的に差が広がる可能性はあります。
また、一般的な会社員と比較すると、AIエンジニアの年収は高めです。エンジニア職の需要は安定して高く、ITやテクノロジーの進歩が続く近年では特に価値が高い職種と見なされています。
AIエンジニア(機械学習エンジニア)に必要なスキル

AIエンジニアには、下記のようなスキルが求められます。
- 機械学習とディープラーニングの知識
- プログラミングスキル
- 数理の知識
- 情報収集力
- コミュニケーションスキル
AIエンジニアは表データや画像、自然言語など、必要なスキルの幅が広いため、得意領域を絞ってスキルを磨いていく方が効率的でしょう。
それぞれ詳しく解説します。
・機械学習とディープラーニングの知識
機械学習やディープラーニングは、AIエンジニアのアルゴリズム構築において基盤となる知識です。それぞれ詳しく見ていきましょう。
機械学習の知識
予測や分類タスクで使用される基本的なアルゴリズムとしては、「線形回帰」や「ロジスティック回帰」が挙げられます。線形回帰は、連続する数値データの直線的な関係を捉える際に役立つ分析手法です。たとえば、「広告費用が増えれば売上も比例して増える」といった関係をモデル化できます。また、ロジスティック回帰は主に分類タスクに使われ、データを特定のカテゴリに分ける際に役立ちます。入力変数と分類確率の間にある線形的な関係を捉えるため、単純な2クラスの分類タスクにおいて有効です。
「決定木」と「ランダムフォレスト」は、データの非線形なパターンを捉える際に役立ちます。「年齢と収入の組み合わせによって購買行動が大きく変わる」といった複雑な関係にも活用可能です。なお、ランダムフォレストは多数の決定木を組み合わせることで予測精度を向上させ、過学習を防ぐ効果もあります。
勾配ブースティング(XGBoost・LightGBMなど)は、機械学習モデルの性能を向上させる強力な手法です。多数の小さな決定木などのモデルを連続的に構築し、それらを組み合わせることで予測モデルを作り出します。勾配ブースティングの内部構造は複雑ですが、幅広いデータセットに適用できるため、実務でよく使用されています。
ディープラーニングの知識
ディープラーニングは非構造化データを処理する際に有効です。いくつかの種類がありますが、CNN(畳み込みニューラルネットワーク)は画像認識に、RNN(再帰型ニューラルネットワーク)は自然言語処理に用いられます。
ディープラーニングの基盤となるのはニューラルネットワークです。そのため、ディープラーニングアルゴリズムを効果的に構築するためには、ニューラルネットワークの理解も不可欠と言えます。
・プログラミングスキル
データの前処理と学習モデルの構築に関するプログラミングスキルは、AIエンジニアにとって特に重要なスキルです。それぞれで必要となる知識について詳しく解説します。
データの前処理
データの前処理は、学習モデルの構築前にデータを整える重要なステップです。Pythonはデータサイエンスと機械学習で人気のあるプログラミング言語で、データの前処理にも役立ちます。Pythonで数値計算を効率的に行えるライブラリ「NumPy」や、データフレームを扱うためのライブラリ「Pandas」などのスキルも習得しておきたいところです。
画像データの前処理には、Python向けのディープラーニングライブラリ「PyTorch」に含まれる「torchvision」が役立ちます。torchvisionは一般的な画像データの変換や拡張をサポートしており、必要に応じてカスタム変換を定義することも可能です。前処理を行うためのカスタムクラスも作成できます。
学習モデル構築スキル
学習モデルを効果的に構築するためには、「PyTorch」と「TensorFlow」のスキルが必要です。
PyTorchは柔軟なモデル構築とデバッグが可能で、研究やプロトタイピングに強みがあります。また、TensorFlowは高度な機能とスケーラビリティの高さが特徴で、生産環境やエッジデバイスでのデプロイに優れています。どちらもニューラルネットワークの層を自由に設計でき、大規模なデータセットでトレーニングも行える強力なツールです。
さらに、汎用的な機械学習アルゴリズムの実装やデータの分割、クロスバリデーション、モデルの評価などが可能な「scikit-learn」に関するスキルも大切です。ただし、scikit-learnは従来の機械学習手法に特化しているため、複雑なディープラーニングモデルには向いていません。
・数理の知識
数理の知識は、機械学習アルゴリズムやディープラーニングモデルの理解と開発に必要です。
微分は勾配降下法などの最適化アルゴリズムで使用されます。ニューラルネットワークのトレーニングでは、損失関数の最小化を行う際に微分が必要です。確率と統計の知識は、データの理解やモデルの評価、不確実性の扱いに役立ちます。
・エンジニアリングスキル
AIエンジニアには、一般的なエンジニアリングスキルも求められます。主要なエンジニアリングスキルには、以下のようなものがあります。
- Gitなどのバージョン管理ツール
- Linux
- SQL
- クラウド
◦Gitなどのバージョン管理ツール
コードのバージョン管理は、複数の開発者との共同作業やプロジェクトの進行管理に不可欠です。AI開発においてもGitを使用するのが一般的となっています。
Gitを使えば「どのコードや設定で、どの結果が得られたのか」を明確に記録でき、再現性が向上します。Gitと連携してモデルのテストやデプロイを自動化するCI/CDパイプラインを構築することも可能です。
◦Linux
多くのAI開発環境やクラウドサービスはLinux上で動作します。HPC(高性能計算)環境やGPUを活用したディープラーニングではLinuxが標準です。データ処理とトレーニングの計算資源も効率的に管理できるLinuxは、AIエンジニアにとって理想的なプラットフォームと言えるでしょう。Linux上で使用するLinuxコマンドは、一般的なエンジニアリングスキルとして取得しておくべき知識です。
なお、大規規模なデータセットの前処理やモデルのトレーニング、結果の分析などの自動化には、Linuxシェルスクリプトの知識が役立ちます。
◦SQL
データベースと連携する作業が増えている現代のAI開発では、データベース言語の一つであるSQLの理解があると効率的にデータを扱えます。SQLを使えば、特定の条件に基づいたデータのフィルタリングや、複雑なクエリの実行による情報の取得も可能です。
大規模なデータを処理する場合には、パーティショニングのような高度なデータベース技術も理解しておくと役立つでしょう。
◦クラウド
近年主流となりつつあるクラウドのスキルも必要です。クラウドサービスを利用すれば、スケーラブルなリソースを活用でき、分散トレーニングとサーバーレスデプロイメントを行えます。大規模なGPUやTPUリソースが必要になるディープラーニングではクラウド環境が理想です。
クラウド環境であれば、複数のノードやGPUを使った分散トレーニングも実現します。複雑なモデルのトレーニング時間を短縮させることも可能です。
・コミュニケーションスキル
技術的なスキルと同様に重要なのがコミュニケーションスキルです。AIエンジニアには、複雑なAI技術をクライアントやチームメンバーにわかりやすく説明する能力が求められます。
プロジェクトの要件を正確に理解したうえで、技術的な制約と可能性をわかりやすく伝えられなければ、効果的なソリューションの提案はできません。関係者との連携を円滑に進めるためにも、優れたコミュニケーションスキルは必要です。
なお、AI分野の最新研究や技術情報の多くは英語で公開されています。また、海外に開発拠点を置くオフショア開発も増えているため、英語でのコミュニケーション能力を磨けば、グローバルな環境における活躍の幅とキャリアの可能性が広がるでしょう。
AIエンジニア(機械学習エンジニア)が年収を上げる方法
AIエンジニアが年収を上げる方法は、下記の3つです。
- スキルと専門性を高める
- 外資系企業に転職する
- フリーランスとして独立する
それぞれ詳しく解説します。
・スキルと専門性を高める
継続的にスキルと専門性を高めることは大切です。AI技術や機械学習アルゴリズム、ディープラーニングなどの専門的な知識を深めれば、高度なプロジェクトや役割にも対応できるようになり、クライアントからの評価が向上する可能性もあります。
自然言語処理、画像認識、強化学習などの特定分野における専門性を高めれば、特化されたスキルが高く評価され、年収の向上にもつながるでしょう。
・外資系企業に転職する
外資系企業は一般的に、高度な技術力と専門性を持つ人材に対して高い報酬を提供する傾向があります。特に近年需要が高まりつつあるAIに関する分野は、企業が優秀な人材の獲得に積極的な姿勢を示しやすいと言えます。
外資系企業はプロジェクトの規模が大きく、最先端の技術に触れる機会も多いため、キャリアアップの観点からも魅力的な選択肢になるでしょう。英語力を活かせる環境で働けば、国際的な経験を積むこともできます。
・フリーランスとして独立する
フリーランスとして独立すれば、スキルと時間を最大限に活用してクライアントと直接契約を結べます。複数案件の同時進行も可能になるため、企業の所属よりも高い報酬を得られる可能性が高まるでしょう。
さまざまなプロジェクトとクライアントに関わりながら多様な経験を積み、スキルを向上させることも可能です。
ただし、フリーランスはプロジェクトベースで働くため、収入が不安定になりがちです。自分で案件を獲得してクライアントと交渉する必要もあるため、営業スキルやマーケティングスキルも身に着けておいた方がよいでしょう。
AIエンジニア(機械学習エンジニア)の年収アップに役立つ資格
.jpg)
AIエンジニアになるための必須資格はありませんが、下記のような資格を保有していると年収アップに役立つ可能性があります。
- 統計検定
- G検定
- AI実装検定
それぞれ詳しく解説します。
・統計検定
「統計検定」は統計の知識や活用力を評価する試験です。統計学の知識は、データ分析や機械学習のモデル構築などに役立ちます。
資格取得の過程では、データ分析のスキル向上や確率的な意思決定の能力が高まります。データを視覚的に表現するための適切な手法を選択するスキルも得られるでしょう。
資格を取得すれば統計学に関する深い知識と専門性を証明でき、キャリアの選択肢が広がります。統計的な分析能力は、高度な分析業務を担当する際にも有利になるでしょう。
・G検定
「G検定」は、ディープラーニングに関する知識や、ビジネスに活用する能力を評価する試験です。多くの企業や業界団体での受験事例があり、業界標準として広く受け入れられています。
内容的には基礎レベルですが、AI分野におけるキャリアのスタートや基礎的なスキルの証明に適しているでしょう。検定の勉強を通じてAIの最新のトレンドや技術についても学べるため、業界の動向に関する理解も深まります。
・AI実装検定
「AI実装検定」は、データサイエンスとAIの専門技術を評価する資格試験です。評価基準は三段階(S/A/B級)に分かれています。
資格を取得すればAI関連のスキルや知識が公式に認められるため、転職やキャリアアップの際に強みとなる可能性があります。また、検定の勉強を通じて最新の技術やトレンドについて学ぶ機会にもなるでしょう。
AIエンジニア(機械学習エンジニア)のキャリアパス

AIエンジニアのキャリアパスは多岐にわたりますが、ここではデータサイエンティスト、AI・機械学習コンサルタント、マネジメント職を紹介します。
データサイエンティスト
データサイエンティストは、大量のデータから価値ある洞察を引き出し、ビジネスの重要な意思決定をサポートする専門家です。
AIエンジニアの経験はデータサイエンティストに求められる技術的スキルと深く関連しているため、キャリアの移行は自然な流れと言えるでしょう。AIエンジニアとしての経験で培った機械学習やディープラーニングの知識は、高度なデータ分析とモデリングにも活かせます。
このキャリアパスを選択する場合は、所属企業やクライアントの業界や業種、業務フローに関する知識も重要です。課題解決のためにビジネスへと落とし込むスキルも欠かせません。データサイエンティストはデータを分析するだけでなく、その結果をビジネスに役立てるために業務の理解やビジネスの目標を把握できる力も求められます。
AI・機械学習コンサルタント
AI・機械学習コンサルタントは、AIや機械学習の導入・活用に関する助言や支援を行う仕事です。AIエンジニアとしての技術的な知識と経験があれば、所属企業やクライアントのビジネス課題を理解して最適なAIソリューションを提案・実装できるようになるでしょう。
ただし、所属企業やクライアントの業界と事業に関する深い理解は必要です。各産業におけるAIの活用事例と最新トレンドに関する知見も求められます。
AI・機械学習コンサルタントを目指す場合は技術力の向上だけではなく、ビジネススキルとプロジェクトマネジメント能力の強化を図りましょう。
マネジメント職
技術力を基盤としながら、チームやプロジェクトを統括するのがマネジメント職の役割です。
マネジメント職を目指す場合には、人材管理やプロジェクト管理、戦略立案などのスキルが求められます。AIエンジニアとしての経験は、技術的な課題を理解する際に役立つでしょう。
経営層とのコミュニケーションも重要です。マネージャー職の立場になると、AIプロジェクトの価値と必要性を経営陣に説明して、リソースを確保しなければいけません。そのため、組織の中でAI戦略を推進するスキルも高める必要があります。
AIエンジニア(機械学習エンジニア)の将来性
AIの技術は急速に発展しており、幅広い分野で活用が進んでいます。この傾向は今後も継続し、さらに加速するでしょう。現在でも多くの企業が業務効率化と意思決定の高度化を目指してAIの導入を検討しています。
なお、企業がAIを導入していない要因の1つとして挙げられるのは、AI人材の不足です。2023年の以下調査では、「AIの導入をリードできる人材がいない」や「AIに関する知見のある人材がいない」が上位に入っています。この要因は2022年よりも2023年の方が顕著になっています。

AIを導入するためには技術を利用するだけでなく、それを適切に設計・管理しながらプロジェクトを推進する人材が必要です。多くの企業がこの点で課題を感じているため、AIエンジニアの需要は今後も高まると考えていいでしょう。
AIの倫理と安全性に関する懸念が高まっていることも、AIエンジニアの重要性を高めています。AIシステムの公平性・透明性の確保には、技術的な知識と倫理的な考察の両方が必要です。そのため、AIの社会的影響を理解したうえで、責任ある開発を行えるAIエンジニアの需要が高まるでしょう。
一方、2023年の統計に見られる「AIに学習させるデータが不足している」ことも企業のAI導入が進んでいない要因の1つです。データの収集・整理・蓄積が進んでいなかったり、データを収集できていたとしても品質や一貫性に問題があったり、データの整備に課題があるケースもあります。
製造ラインやオフィスへのIOTデバイスの導入や、データクレンジングなどの前処理により多くの企業においてデータの整備が進めば、AIエンジニアが高度な分析や技術開発に取り組むことができ、企業における活用の幅も広がるでしょう。
このようにAIエンジニアの需要は高まっていくことが予想されますが、AIエンジニアとして将来的に成功するためには、継続的な学習と技術の更新が大切です。AIの関連分野は急速に進化しており、新しいアルゴリズムやフレームワークが次々と登場しています。最新の技術動向を常にキャッチして、スキルを磨き続ける必要があるでしょう。
まとめ
AIエンジニアの平均年収は約597万円です。一般的なエンジニアの年収と同等ですが、一般的な会社員よりも高い報酬を得ています。AIや機械学習のような先端技術の分野は成長が期待されるため、今後は一般的なエンジニアの年収を超える可能性も考えられるでしょう。
年収を向上させるためには、必要なスキルと経験を継続的に積むことが重要です。AIエンジニアは活躍できる業界の幅の広い職種なので、目指してみる価値は十分にあるでしょう。