ITアーキテクトとは
ITアーキテクトとは、経営戦略に合わせたITシステムの設計・構築をする専門家です。開発チームと連携してシステムの設計や実装を監督することもあります。
「アーキテクト(architect)」とは、建築士・設計者などといった意味を持つ英単語です。つまりITアーキテクトは、企業が持つ経営戦略に最適なIT(Web)システムは何かを考えて設計図を作り(設計し)、組み立てる(構築する)者と説明できます。
設計・構築の技術や業務理解だけではなく、経営戦略に適したシステムを作り上げるために、IT分野の最新動向や企業の経営課題に関する深い理解なども求められる職種です。
ITコンサルタントとの違い
ITコンサルタントは、ビジネス戦略の観点からITの活用方法を提案・助言する職種です。企業・クライアントの課題解決に向けて全体的な方向性を示します。それに対し、ITアーキテクトは、ITコンサルタントが示したその方向性を技術ソリューションとして実現するのが仕事です。
ITコンサルタントは戦略の立案や導入の支援などクライアントとのやり取り・関わりに重きを置く仕事、ITアーキテクトは設計・構築などシステムを作り上げる業務に重点を置く仕事と言えます。
プロジェクトマネージャー(PM)との違い
プロジェクトマネージャーは、品質管理、リソース配分、スケジュール管理などを行いながらプロジェクトの成功に向けて全体を統括します。一方、ITアーキテクトは技術的な側面に特化して、システムの設計や技術選定、アーキテクチャ(構造・構成)の決定を行います。
プロジェクトマネージャーはプロジェクトの管理者、ITアーキテクトはプロジェクトの技術者と考えればわかりやすいでしょう。
ITアーキテクトの仕事内容

ITアーキテクトの主な仕事は、クライアントのビジネス要件に基づいてIT環境全体を設計・最適化し、システム間の統合や将来の拡張性を考慮しながら、効率的で堅牢なIT基盤を構築することです。
技術者としてシステム、ネットワーク、ソフトウェアなど、あらゆるIT関連要素を統合的に考えます。さらに、ビジネスの目標を達成するためのIT戦略も立案します。経営戦略とシステムの開発の両面からクライアントをサポートする重要な仕事です。
これらの仕事内容をITアーキテクトが担うにあたって、仕事内容はそれぞれ以下3種類の専門分野に分けられます。
- インテグレーション分野
- インフラストラクチャ分野
- アプリケーション分野
それぞれ詳しく見ていきましょう。
・インテグレーション分野
インテグレーション分野では、システムやアプリケーション間の統合を効率的に行うためのフレームワークや実装方式を設計します。異なる企業間の利害関係と制約を考慮しながらシステムを連携させるのも仕事です。統合・一体化などの意味を持つ英単語の「インテグレーション(integration)」から来ています。
特に、大企業では部署別に複数のシステムやアプリが稼働しているケースが多く、標準システムを決めて企業内のシステムを統合する必要性が高まっています。このような需要に対して、ITアーキテクトは標準システムの策定や企業全体のIT戦略の立案、新技術の導入検討など、幅広い視点でシステム構築を主導するのがインテグレーション分野の役割です。
・インフラストラクチャ分野
インフラストラクチャ分野では、セキュリティ、ネットワーク、データベースの設計を担当してITインフラ環境を作り上げます。下部構造・基礎・基盤などといった意味がある英単語の「インフラストラクチャ(infrastructure)」から来ています。
また、セキュリティ要件、拡張性(スケーラビリティ)、災害復旧計画などを考慮しながら、オンプレミスとクラウドのバランスを最適化します。コスト効率や将来の拡張性も視野に入れて総合的なインフラストラクチャ戦略を立案する、大切な仕事です。
・アプリケーション分野
アプリケーション分野では、ビジネスニーズに合わせた、使いやすく効率的なソフトウェア(アプリ)の設計・開発を行います。
画面や帳票などのビジネスロジックの設計も担当します。また、「システムの設計がビジネスのニーズを満たして技術的に実現可能であるかどうか」という評価を行うのも、アプリケーション分野の領域です。
この分野において重要なのは、アプリの性能、セキュリティ、拡張性を考慮に入れた全体的な方向性の決定です。
・ITアーキテクトの平均年収
2024年6月時点の情報として「求人ボックス」が公表していたデータによると、正社員のITアーキテクトの平均的な年収は約747万円です。
ITアーキテクト (正社員) | ITアーキテクト (フリーランス) | 一般的な エンジニア | 一般的な 会社員 | |
平均 年収 | 約747万円 | 約1,020万円 | 約579万円 | 約507万円 |
引用:「求人ボックス ITアーキテクトの仕事の年収・時給・給料(求人統計データ)」、「2023年11月時点でのレバテックフリーランスでの公開案件を基にした月単価・年収例」、「令和5年賃金構造基本統計調査 一般労働者 職種 表番号2」、「令和5年賃金構造基本統計調査 一般労働者 産業大分類 表番号1」
正社員、フリーランスのどちらも一般的なエンジニアに比べて年収が高く、一般的な会社員と比べても高給であることがわかります。
ITアーキテクトは、システム全体の設計や構築を担当する高度な専門家です。プロジェクト全体の成功・失敗に大きな影響を与える立場でもあるため、求められる技術力や責任の重さに見合った高い報酬が設定されていると考えていいでしょう。
ITアーキテクトが年収を上げる方法

ITアーキテクトが年収を上げる主な方法は、下記の3つです。
- 専門知識の深化と最新技術の習得を行う
- 業界に特化したスキルを磨く
- フリーランスとして独立する
・専門知識の深化と最新技術の習得を行う
ITアーキテクトとして年収を上げるためには、専門知識を深めて常に最新の技術を学び続けることが大切です。
技術は日々進化しており、新しい知識やスキルを積極的に吸収する姿勢が求められます。特に、下記分野の知識と最新技術は積極的に習得したいところです。
分野 | 詳細 |
ネットワーク | クラウド、SDN(Software Defined Networking)、5G、IoT(Internet of Things)などの、新技術を含む重要な分野 |
データベース | 近年では、NoSQLデータベース、データウェアハウス、データレイク、ビッグデータ分析のようなデータ管理の重要性が増している |
アプリケーション | マイクロサービスアーキテクチャ、コンテナ技術、サーバーレスコンピューティングといったアプリ開発・運用の新しいパラダイムが登場している |
セキュリティ | サイバーセキュリティの重要性が増している近年では、ゼロトラストセキュリティ、AIを活用したセキュリティなどの最新知識が求められる |
これらの分野は相互に関連していることから、全分野における深い知識と最新動向の理解、習得が求められます。特定分野での専門性を高めることも大切ですが、より高い年収が得られるITアーキテクトになるためには、幅広い知識とそのバランスが何よりも重要です。
・業界に特化したスキルを磨く
年収アップを目指すのであれば、業界に特化したスキルも磨きたいところです。
金融業界、医療業界、製造業など、それぞれの業界には固有の課題やニーズがあります。このような業界特有の知識とスキルを習得すれば、業界におけるITアーキテクトとしての価値が高まり、報酬アップも期待できます。
たとえば金融業界であればフィンテックやサイバーセキュリティなどに関する知識、医療業界なら電子カルテシステムや医療データの取り扱いなどを学ぶといいでしょう。
・フリーランスとして独立する
平均年収の項目で紹介したとおり、フリーランスは正社員より年収が高い傾向にあるため、独立の選択肢もあります。自分の市場価値に応じた報酬を直接交渉できるなど、会社の評価の枠にとらわれず報酬を設定できるのは、フリーランスの大きなメリットです。
ただし、フリーランスで高い年収を目指すためには、極めて高度な専門性と豊富な経験が求められます。たとえば年収アップを志して会社員からフリーランスへ転向しても、思うように収入が得られず年収が伸び悩む可能性もありえます。
独立を検討する場合は「副業から始める」といった段階的なアプローチ、また「十分な貯蓄を確保してから転向する」など、慎重に計画を立てた方がいいでしょう。
ITアーキテクトに必要なスキル
ITアーキテクトに必要とされるスキルには、以下の3つが挙げられます。
- 設計技法
- コンサルティングに関する知見
- マネジメントスキル
なお、システムの設計・構築を行う際の開発過程では、さまざまな手法が用いられます。たとえばウォーターフォール(ウォーターフォール型開発、ウォーターフォールモデルなど)を手法として用いる場合、ITアーキテクトが関わる工程は基本的に要件定義と基本設計です。その点も踏まえ、以下の解説をご覧ください。
・設計技法
新規システムの場合はゼロベースで、既存システム刷新の場合は現状分析から始めて、段階的にシステムの全体像を描きます。ここで、ITアーキテクトとして十分な設計技法が、スキルとして必要とされるのです。
なお、当然ながら設計プロセスは一様ではありません。プロジェクトの性質や組織の状況に応じて適切なアプローチを選択します。設計技法を磨くためにも、さまざまな設計パターンとベストプラクティスを学んで応用できるようにしましょう。
・コンサルティングに関する知見
ITアーキテクトは、クライアントの経営戦略に合わせたシステム設計などを担う職種です。クライアントの意向や経営戦略を把握・理解し、それらに合わせたシステムを考え実装していくためには、コンサルティングの知見が欠かせません。
ただ、要件を正しく理解し最適な答えを出すことだけがコンサルティングではありません。相手に合わせたコミュニケーションを取ることでより適切なコンサルティングが行えるため、コミュニケーションスキルもコンサルティングスキルに含まれます。
ITアーキテクトのコンサルティングでは、クライアントのITリテラシーに応じて要件の聞き出し方や確認方法を調整する必要があるため、高度なコミュニケーションスキルが不可欠です。
また、クライアントとの信頼関係を築き、潜在的なニーズや課題を引き出す能力も求められます。技術的な利点を説明するだけでなく、どのように業務効率を向上させてコストを削減し、競争力を高めるかなども説明できなければいけません。
そして、費用をわかりやすく伝えるために、設計したシステムの全体的な構想や予算感を把握する能力も不可欠です。
コンサルティングスキルを向上させるには、ビジネス戦略や経営学の基礎を学ぶのが効果的でしょう。幅広い業界のケーススタディを研究したり、実際のコンサルティングプロジェクトに参加したりすれば、実践的な経験を積むこともできます。
・マネジメントスキル
ITアーキテクトはシステム設計・構築プロジェクトの全体の進行管理も行います。そのため、スケジュール管理やリソース配分を効果的に行うマネジメントスキルが必須です。
複数のチームや部門と連携し、プロジェクトを成功に導くリーダーシップも求められます。予算内でプロジェクトを完了させるコスト管理能力や、潜在的なリスクを特定して防止・軽減する能力も必要になるでしょう。
たとえどんなに高い設計能力やシステム構築能力などを持っていても、マネジメントスキルが不足していると、ITアーキテクトとして成功を収めるのは困難です。ITアーキテクトとして基礎的な設計技術なども重要ですが、その上にマネジメントスキルを築くのが理想だと言えます。
ITアーキテクトの年収アップに役立つ資格

ITアーキテクトになるために必須とされる資格はありません。ただし、下記のような資格を保有していると年収アップに役立つ可能性があります。
- システムアーキテクト試験
- プロジェクトマネージャ試験
それぞれ詳しく解説します。
・システムアーキテクト試験
システムアーキテクト(SA)試験は情報処理技術者試験のひとつで、「高度区分試験」に分類される国家試験です。複雑なシステムを効率的に設計、選定、要件定義するなどの能力を示せます。IT(システム)アーキテクトとしての知識とスキルを証明できるため、取得が望ましい資格です。
ただし、試験の専門性は極めて高く、合格率は15%程度と低めになっています。高難度試験と考えていいでしょう。そのため、資格を保有していれば、高度な専門性を持つプロフェッショナルと認識されて年収アップが期待できます。
試験の実施時期は春期(4月)の年1回で、受験料は7,500円(税込)です。
・プロジェクトマネージャ試験
プロジェクトマネージャ(PM)試験は、プロジェクトマネジメントの知識とスキルを評価する国家試験です。システムアーキテクト試験と同様に高度な資格に位置付けられており、IT業界でも高く評価されています。
プロジェクトマネジメントの知識やスキルは、ITアーキテクトのリーダーとして仕事を進めるときに役立つでしょう。リスク管理や問題解決の手法を学ぶ機会にもなります。
資格を取得すれば、ITアーキテクトとしてシステムの設計・実装におけるリスクを効果的に管理し、予期せぬ問題にも迅速に対応できるようになります。将来的にプロジェクトマネージャーやコンサルタントを目指したい人にもおすすめです。
試験の実施時期は秋期(10月)の年1回で、受験料は7,500円(税込)です。
ITアーキテクトのキャリアパス
ITアーキテクトの主なキャリアパスとしては、プロジェクトマネージャー(PM)、ITコンサルタント、CTO・CIOが考えられます。それぞれ詳しく見ていきましょう。
プロジェクトマネージャー
プロジェクトマネージャー(PM)の役割は、プロジェクトの計画立案から実行、完了までの全過程の管理です。
ITアーキテクトに関する深い知識は、プロジェクトマネージャーとして全体を統括する際にも大きな強みとなります。プロジェクトマネージャーへのキャリア移行は自然な流れのひとつと言えるでしょう。
なお、ITアーキテクトからプロジェクトマネージャーの道に進んだとしても、簡単に成功できるとは限りません。マネージャーとして、プロジェクト全体を俯瞰する視点を養う必要があります。人材管理やコミュニケーションのスキル向上も必須です。
キャリアの移行に際して、よりマネージャーとしての成功を求めるのであれば、プロジェクトマネジメントの専門資格「PMP(Project Management Professional)」の取得を目指すのも効果的でしょう。
ITコンサルタント
ITコンサルタントの主な役割は、クライアント企業のビジネス課題分析と、それを解決する最適なIT戦略の提案です。
ITアーキテクトとしての経験は、複雑なITシステムの設計と実装に関する深い理解にもつながるでしょう。これは、ITコンサルタントとして客観的・専門的な助言を提供する際にも大きな価値となります。
ITコンサルタントとして成功するためには、業界の知識を広げて各業界特有のIT課題と最新のテクノロジーに関する理解を深めることが重要です。
なお、ITコンサルタントとしてのキャリアは、個人の専門性と経験に応じて異なります。大手コンサルティング企業に所属してキャリアを積むか、独立してフリーランスのコンサルタントとして活動するか、その選択肢はさまざまです。
成功を重ねられれば、高度な戦略的アドバイザーとしての役割や、特定業界のエキスパートとして認められる機会も増えるかもしれません。
CTO・CIO
技術的リーダーシップの頂点を目指したい場合は、CTO(最高技術責任者)やCIO(最高情報責任者)へのキャリアパスも考えられます。
CTOの主な役割は、組織の技術戦略策定と実行です。一方、CIOは組織全体の情報システムと戦略を統括して、目標達成のためにITを活用する方法を決定します。
CTO・CIOへと進むためには、ビジネス戦略の立案や財務管理、リーダーシップなどのスキルが必要です。それらのスキルを付けるためには、部門のリーダーやマネージャーとしての経験を積みながら、徐々により大きな責任を担っていくという流れが効率的でしょう。このプロセスで、戦略の立案や大規模プロジェクトの管理、予算策定といった経験を積むこともできます。
ITアーキテクトの将来性
結論から言うと、ITの必要性や普及率に比例してITアーキテクトの必要性も高まっており、将来性はあると言えます。
デジタル技術が急速に進化し、ビジネスのあらゆる側面でITの重要性が増している中、ITアーキテクトという役割はますます重要になっています。また、企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進に伴い、ITアーキテクトの需要も高まっています。ITとビジネスの橋渡しができる存在であるITアーキテクトは、IT化・DXにとって必要不可欠と言っていいでしょう。
セキュリティを考慮したシステム設計の必要性も、ITアーキテクトの需要が高まっている要因です。データ保護やプライバシー関連の規制が厳しくなっている近年では、セキュリティを「後付け」ではなく、システムの設計段階から組み込む必要があります。これはITアーキテクトの重要な職務のひとつです。
ITアーキテクトの役割は技術の進化に合わせて変化し続けるため、継続的な学習と適応は欠かせません。しかし、このような変化がITアーキテクトという職業をやりがいのあるものにしています。ビジネスとITの両方を理解しているITアーキテクトは、将来的に組織の経営戦略全体を指揮する立場に進む可能性も高くなるでしょう。
このように、ITアーキテクトの将来性は非常に明るく、技術の進化とビジネスの変革が続く限り重要性も高まり続けることが予想されます。
まとめ

ITアーキテクトは、IT化が進む現代社会の企業経営において重要な役割を担う職種です。そのため、正社員のITアーキテクトは平均年収約747万円と高い水準となっています。そして、フリーランスの場合平均年収が約1,020万円というデータもあります。
システム設計のスキルだけでなく、プロジェクト管理やリーダーシップの能力も求められますが、高年収が期待できるエンジニア職のひとつです。IT化の波に乗ってこれからどんどん需要が高まる職種だと期待できるため、ITアーキテクトの道へ挑戦してみてはいかがでしょうか。